ほっとタウン - 2014年07月号 -  公益財団法人 荒川区芸術文化振興財団

ほっとタウンは荒川区芸術文化振興財団が毎月発行している、荒川区の地域情報誌です。区内の様々な情報や、区民のみなさまが参加されている各団体の活動、区内のイベントなどを掲載しています。


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ACC         2014年7月号NO.307I02情報満載のオフィシャルサイトへアクセス!ACC公益松崎啓三郎さんまつざきけいざぶろう江戸木版画摺師連綿と受け継がれ、今なお息づく  日本が誇る江戸木版画摺の技■プロフィール昭和12年千葉県勝浦市生まれ。77歳。昭和27年から台東区元浅草で高木蟹泡堂を経営する高木省治氏に師事し、4年間の修行を経て町屋で独立。摺師の系譜では村松三井系の流れを汲む。昭和63年に荒川区登録無形文化財保持者、平成23年に荒川区指定無形文化財保持者として認定される。現在、荒川区伝統工芸技術保存会副会長、東京伝統木版画工芸協同組合理事、浮世絵木版画彫摺技術保存協会理事を務める。平成26年春の叙勲で受章。 荒川区には江戸の伝統文化や工芸技術を今に伝える職人さんが多く住んでいます。昭和31年から町屋で木版画摺師として仕事を続けてきた松崎さんもその一人。歌川︵安藤︶広重の晩年の大作﹁名所江戸百景﹂のシリーズをはじめ、美人画や街道ものの復刻版、名刺代わりに使われた交換札など、さまざまな江戸木版画を手掛けています。今年の春の叙勲で瑞宝単光章を受章され、77歳の今も現役の松崎さんの仕事場にて、お話を伺いました。 木版画は絵師が描いた絵を彫師が版木に彫り、摺師が版木に色を乗せて和紙に摺るという工程を経て一つの作品が仕上がります。多色摺りの木版画には、絵の土台となる輪郭が彫られた墨版と色を重ねるための複数枚の色版があり、摺師は自ら色を作り、一色ずつ、一分の狂いなく重ねていきます。  松崎さんが摺師の仕事に就いたのは昭和27年。まだ機械刷りが少ない時代でした。 ﹁16歳のときに千葉県の勝浦から上京して、台東区元浅草の高木省治に弟子入りしました。当時は掛け紙や祝儀・不祝儀の袋といった日用品を摺っては卸すという毎日。忙しくて夜遅くまで仕事をしても追いつかないくらい。親方のところに4年いたけれど、町屋に来たころは、仕事もまだまだ中途半端で、色づくりは大変だったね﹂ 木版画に使う顔料は、墨、藍、黄、紅の4色ですべての色を表現します。混ぜる色の割合、濃さ、粘り、版木に乗せる量、すべてを経験と感性で見極めなければならないため、独立直後はかなり苦労されたようです。 ﹁難しいのは﹃ぼかし﹄。例えば、﹃名張りつめた静寂のなかにも熱気漂う作業場お話中の柔和な笑顔から、真剣な眼差しに16歳で弟子入り、4年の修行後、20歳で現在の町屋で独立を果たす所江戸百景鉄砲洲稲荷橋湊神社﹄の空や川の濃淡は、色の刷毛と水の刷毛を使ってぼかします。ぼかしの深さを揃えるのが特に難しいんですよ﹂ 松崎さんは、原画の色を再現するだけでなく、お客様の手に渡るまでの時間の経過による版画の褪色を考慮し、少しだけ濃く摺るという計算もしながら、色づくりをしているそうです。 松崎さん曰く、趣味でやっているわけじゃないから、スピードが命。手摺りで量産するためには、摺り上がりの質はもちろんですが、速さが求められると言います。そこで重要な役割を果たすのが、版木にある﹁見当﹂という目印。各版木に付けられた﹁見当﹂を頼りに紙を合わせていきます。 ﹁見当を合わせるのが一番大事。特に美人画は、唇や瞳が入ったりするから、見当が違っちゃ見苦しいでしょ﹂ とはいえ、1枚の木版画を仕上げるには、多いものでは40回も色版を重ねます。狂いやひび割れが少ないとされる山桜の木で作られた版木でさえも、温度や湿度で伸縮するため、濡らしたり、乾かしたり、毎回微調整が必要になります。越前産の﹁奉書紙﹂という専用の和紙も﹁床﹂で寝かして、湿り加減を調整します。そのすべてが長年の経験に裏付けられているのです。 使う道具も重要。馬楝は薄い紙を48枚も貼り合わせた皿形の﹁当皮﹂の内側に竹皮を編んだものを渦巻き状に敷き詰め、竹の皮で覆います。これも松崎さんはご自身で作ります。 ﹁馬楝は新しいうちは広い部分を摺るのに使って、編んだ竹皮の角がとれてきたら絵の輪郭となる地墨や細かい部分に使います。刷毛も新しいものは鮫の皮で太い毛を割っておろすんです。おろしすぎると柔らかくなり過ぎるから、その見極めも難しいですよ。道具も技術のひとつ。道具がなくちゃ仕事にならないものね﹂ 7年かけて仕上げた広重の﹁名所江戸百景﹂118図や伊東深水、上村松篁といった著名な浮世絵師の作品のほか、菓子箱の掛紙や郵便記念切手の包装など松崎さんの仕事は多岐に亘ります。現在は後世への継承にも注力されています。荒川区では、伝統技術を持つ職人に弟子入りできる﹁匠育成支援事業﹂があり、松崎さんも若者を受け入れ、職人として育成中。 ﹁何百年も受け継がれてきた、世界に誇れるこの技術を後世に伝えていかないと。我々の時代で絶やしてしまうわけにはいきません﹂ 機械刷りとは全く異なり、松崎さんの手で摺られたものは色合いの美しさはさることながら、紙に凹凸をつける技法により絵に奥行きがあり、表情豊か。7月4日︵金︶からは、荒川区内で受け継がれてきた伝統工芸技術を集めた﹁第35回あらかわの伝統技術展﹂があります。多くの方に来場いただき魅力に触れていただきたいと思います。けんほうしょしとうとこばれんあてがわ7月4日︵金︶∼6日︵日︶荒川総合スポーツセンター※詳細は、6ページをご覧ください。熟練摺師の経験に裏付けられた美しく、味わい深い摺り上がり﹁第35回あらかわの伝統技術展﹂


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